埼玉県の開業・起業及び廃業状況分析 -地域別・業種別からみる開業支援事業の必要性-

埼玉県の開業・起業及び廃業状況分析

地域別・業種別からみる開業支援事業の必要性
(直近2年間のデータに基づくレポート)

※ 本レポートは中小企業庁・埼玉県・帝国データバンク・各種公的統計等の公開情報を参考に総合経営コンサルタントいなかん独自で自動集計・可視化しています。

概要・本レポートの目的

埼玉県内の最新(2022~2024年頃)の開業(起業)件数・廃業件数について、地域(市区町村)・業種別に統計を整理し、その現状と課題を分析します。
特に開業支援事業とかかわる必要性が高い業種をランキング形式で示すことで、地域経済や産業支援施策の今後の方向性を検討するための材料を提供します。

地域別(市町村別)の開業・廃業状況(令和3年までの平均)

県内自治体ごとの開業率・廃業率上位自治体を一覧とグラフで示します。
吉川市、さいたま市中央区、川口市などが高い開業率を示しており、一方で廃業率も高水準の自治体が多く、事業の入れ替わりが活発な地域が見受けられます。

自治体(開業率上位)開業率 自治体(廃業率上位)廃業率
吉川市8.2%吉川市7.9%
さいたま市中央区6.2%川口市7.8%
川口市6.3%さいたま市中央区7.1%
さいたま市浦和区6.1%和光市6.8%
和光市6.5%さいたま市浦和区6.6%
ふじみ野市4.2%熊谷市6.2%
さいたま市桜区5.3%春日部市6.0%
新座市5.3%上尾市5.8%
三郷市4.0%入間市5.8%
蕨市5.5%さいたま市緑区6.1%
出典:埼玉県「令和3年経済センサス」・県統計整理より

業種別の開業率・廃業率(平成28年~令和3年平均)

業種大分類ごとの開業率・廃業率をまとめたものです。情報通信業や電気・ガスなどのインフラ、専門サービス業で開業率が高い一方、飲食や小売・サービス業では廃業率も高く、入れ替わりの激しい業種であることが分かります。

業種開業率廃業率
電気・ガス・熱供給・水道業15.8%3.9%
情報通信業12.5%6.7%
学術研究・専門・技術サービス7.6%5.4%
医療・福祉6.0%4.5%
その他サービス5.9%4.5%
運輸・郵便業5.7%4.4%
不動産・物品賃貸5.7%5.1%
建設業4.6%4.9%
金融業・保険業5.1%5.2%
教育・学習支援4.5%6.1%
卸売・小売業4.1%6.0%
宿泊業・飲食サービス4.2%7.8%
生活関連サービス・娯楽業3.3%5.5%
製造業2.5%4.6%
鉱業・採石業・砂利採取業2.6%2.6%
複合サービス事業1.3%1.8%
  • 開業率が高い:情報通信業、専門サービス、インフラ業
  • 廃業率が高い:飲食・宿泊業、教育・小売
  • 業界入れ替り活発:新技術系/消費者向けサービス業中心
出典:埼玉県「令和3年経済センサス」より集計

開業支援事業とのかかわりが特に必要な業種ランキング・マトリクス

開業率、黒字企業割合(成長性)、休廃業件数の多さを加味した独自スコアを用い、「開業支援の必要性」が高い業種をランキング・マトリクス(四象限)で図示します。

開業支援 総合経営コンサルタントいなかん独自調べ

※開業支援必要性スコアは、開業率、黒字企業割合、休廃業・解散件数(規模調整)から総合経営コンサルタントいなかんが独自算出。

順位業種スコア補足
1卸売・小売業25.8件数規模が巨大かつ廃業率高
2宿泊業・飲食サービス20.2開業・廃業率高、持続支援重要
3建設業17.9地域下支え、休廃業も多い
4医療・福祉16.1成長性高・今後も社会的ニーズ
5製造業15.3雇用基盤で黒字も多い
6生活関連サービス・娯楽業13.7入れ替わりが特に激しい
7不動産・物品賃貸11.8フローは低いが潜在市場大
8学術研究・専門サービス8.1開業率高いが小規模
9サービス業(他に分類)7.4裾野広げやすい
10情報通信業6.2開業率No.1層、成長も黒字も多

地域経済の特徴と開業支援への示唆

  • 埼玉県は首都圏の一大人口集積圏であり流入人口とともに小売や飲食・サービス業の創業が活発。しかしこれら業種は廃業率も高く、政策的な持続支援がとりわけ重要。
  • 情報通信・専門サービス業が開業率・黒字ともに高く、ICTやデジタル技術関連で新規チャレンジを促しやすい環境。
  • 医療福祉など社会インフラ業種は今後の需要増加が見込まれ、開業・持続サポート双方の充実が求められる。
  • 地域によっては廃業率が高く後継者難も課題であり、市町村ごとの支援体制と拠点形成が必要。

今後も「柔軟な起業支援」と「持続・承継サポート(M&A/第三者承継)」両輪での政策設計が、地域経済の安定とダイナミズム維持に有効であることが、本分析から示唆されます。

参考文献・出典

いなかん | 業種別ご支援ポイント

業種 スコア ご支援ポイント
情報通信業6.2高度人材確保・R&D支援
サービス業(その他)7.4ニッチ市場開拓・スモールビジネス強化
学術研究・専門サービス業8.1助成金活用・研究費補助
不動産・物品賃貸業11.8空室対策・地域需要マッチング
生活関連サービス・娯楽業13.7人材定着・流行分析支援
製造業15.3スマート工場化・設備更新支援
医療・福祉業16.1職員確保・報酬制度最適化
建設業17.9技能承継支援・法要件サポート
宿泊業・飲食サービス業20.2業態転換支援・人材育成
卸売・小売業25.8後継者育成・DX導入支援

1位:卸売・小売業(スコア:25.8)

主な廃業理由:

  1. 後継者不在と経営者の高齢化
    埼玉県内の中小企業では、経営者の高齢化が進行しており、特に卸売・小売業においては後継者不在が深刻な問題となっています。親族内での事業承継が難しいケースが多く、結果として廃業を選択する企業が増加しています。
  2. 競争の激化と収益性の低下
    大手チェーン店やECサイトの台頭により、価格競争が激化しています。特に小規模な卸売・小売業者は、仕入れコストや販売価格での競争力を維持することが難しく、収益性が低下しています。このような状況が続く中で、経営の継続が困難となり、廃業に至るケースが増えています。
  3. 人手不足と人材確保の困難
    少子高齢化の影響により、労働力人口が減少しており、卸売・小売業でも人手不足が深刻化しています。特に若年層の確保が難しく、従業員の高齢化が進む中で、業務の継続が困難となる企業が増えています。このような人材確保の課題が、廃業の一因となっています。



  4. これらの要因が複合的に影響し、埼玉県の卸売・小売業の廃業率を押し上げています。 特に後継者不在や人手不足は、早急な対策が求められる課題です。

2位:宿泊業・飲食サービス業(スコア:20.2)

主な廃業理由:

  1. 人手不足と人材確保の困難
    宿泊業・飲食サービス業では、長時間労働や低賃金などの労働環境が原因で、人材の確保が難しくなっています。特に若年層の従業員が集まりにくく、結果としてサービスの質の低下や営業継続の困難さにつながっています。
  2. 感染症の影響による需要減少
    新型コロナウイルスなどの感染症の拡大により、宿泊業・飲食サービス業は大きな打撃を受けました。外出自粛や旅行の制限により客足が減少し、売上の大幅な減少が経営を圧迫し、廃業を選択する企業が増加しました。
  3. 競争の激化と差別化の難しさ
    宿泊業・飲食サービス業は新規参入が比較的容易な業種であり、競争が激化しています。特に都市部では同業他社との競争が激しく、価格競争やサービスの差別化が難しくなっています。このような環境下で、収益性の確保が困難となり、廃業に至るケースが増えています。
これらの要因が複合的に影響し、埼玉県の宿泊業・飲食サービス業の廃業率を押し上げています。
特に人手不足や感染症の影響は、業界全体にとって深刻な課題であり、早急な対策が求められます。

3位:建設業(スコア:17.9)

主な廃業理由:

  1. 後継者不在と経営者の高齢化
    建設業界では、経営者の高齢化が進行しており、後継者の確保が難しい状況が続いています。特に中小企業では、経営者が「経営業務管理責任者」や「専任技術者」を兼務しているケースが多く、後継者がこれらの要件を満たすことが難しいため、事業承継が困難となっています。
  2. 人手不足と若年層の就業敬遠
    建設業界は、労働環境の厳しさや長時間労働のイメージから、若年層から敬遠される傾向があります。その結果、若手人材の確保が難しくなり、従業員の高齢化が進行しています。このような人手不足が、事業の継続を困難にし、廃業の要因となっています。
  3. 建設業許可要件の厳格化と承継の難しさ
    建設業を継続するためには、法律に基づいた「建設業許可」を取得する必要があります。しかし、事業承継の際には、後継者が「経営業務管理責任者」や「専任技術者」としての要件を満たす必要があり、多くの中小建設業者ではこれらの要件を満たす人材の確保が難しい状況です。そのため、許可の継続が困難となり、廃業を選択するケースが増加しています。
これらの要因が複合的に影響し、埼玉県の建設業の廃業率を押し上げています。
特に後継者不在や人手不足は、業界全体にとって深刻な課題であり、早急な対策が求められます。

4位:医療・福祉業(スコア:16.1)

主な廃業理由:

  1. 経営者の高齢化と後継者不足
    医療・福祉業界では、経営者の高齢化が進行しており、後継者の確保が難しい状況が続いています。特に小規模な診療所や介護施設では、親族内での事業承継が困難なケースが多く、結果として廃業を選択する企業が増加しています。帝国データバンクの調査によると、病院・診療所の後継者不在率は65.3%と、全業種の中でも高い水準にあります。
  2. 人材不足と採用の難しさ
    医療・福祉業界では、看護師や介護士などの専門職の人材確保が難しくなっています。特に訪問看護ステーションでは、常勤換算で2.5人以上の看護職員の雇用が必要とされており、採用活動が困難な状況です。厚生労働省の調査によると、2023年1月の看護職の有効求人倍率は2.47と高く、需要が供給を上回る「人手不足」の状態が続いています。
  3. 収益性の低下と経営の圧迫
    医療・福祉業界では、介護報酬の改定や医療費の抑制などにより、収益性が低下しています。特に小規模な介護事業所では、わずかな介護報酬の引き下げでも経営への影響が大きく、廃業や倒産の原因となるケースがあります。例えば、2015年の介護報酬改定では介護報酬が-2.27%引き下げられ、多くの介護事業者が廃業・倒産に追い込まれました。
これらの要因が複合的に影響し、埼玉県の医療・福祉業の廃業率を押し上げています。
特に後継者不在や人材不足は、業界全体にとって深刻な課題であり、早急な対策が求められます。

5位:製造業(スコア:15.3)

主な廃業理由:

  1. 後継者不在と経営者の高齢化
    製造業では、経営者の高齢化が進行しており、後継者の確保が難しい状況が続いています。特に中小企業では、親族内での事業承継が困難なケースが多く、結果として廃業を選択する企業が増加しています。
  2. 人手不足と技能継承の困難
    製造業界では、熟練工の高齢化が進み、若年層の人材確保が難しくなっています。その結果、技能の継承が困難となり、生産性の低下や品質の維持が難しくなっています。
  3. 設備投資の負担と技術革新への対応遅れ
    製造業では、設備の老朽化に伴い、新たな設備投資が必要となりますが、資金調達が難しい中小企業では対応が困難です。また、技術革新のスピードが速く、それに対応できない企業は競争力を失い、廃業に至るケースが増えています。
これらの要因が複合的に影響し、埼玉県の製造業の廃業率を押し上げています。
特に後継者不在や人手不足は、業界全体にとって深刻な課題であり、早急な対策が求められます。

6位:生活関連サービス・娯楽業(スコア:13.7)

主な廃業理由:

  1. 需要の変動と流行の変化
    美容院やフィットネスジム、娯楽施設などは、消費者の嗜好や流行の変化に大きく影響されます。新たなトレンドに対応できない場合、顧客離れが進み、経営が困難になることがあります。
  2. 人手不足と労働環境の課題
    長時間労働や低賃金といった労働環境の問題から、従業員の確保が難しくなっています。特に若年層の離職率が高く、サービスの質の維持が困難になるケースがあります。
  3. 競争の激化と差別化の難しさ
    同業他社との競争が激化し、価格競争やサービスの差別化が難しくなっています。特に都市部では新規参入が多く、既存店舗の経営が圧迫される傾向があります。

7位:不動産・物品賃貸業(スコア:11.8)

主な廃業理由:

  1. 市場の変動と収益性の低下
    不動産市場の変動により、物件の空室率が上昇し、収益性が低下しています。特に地方部では人口減少の影響を受けやすく、賃貸需要の減少が経営を圧迫します。
  2. 管理コストの増加と老朽化対応
    物件の維持管理にかかるコストが増加し、老朽化した物件の修繕や改修に多額の費用が必要となります。これにより、収益を圧迫し、経営が困難になるケースがあります。
  3. 法規制の強化と対応の難しさ
    賃貸業に関する法規制が強化され、対応が難しい場合があります。特に中小企業では、法令遵守のための体制整備が困難であり、廃業を選択するケースが増加しています。

8位:学術研究・専門サービス業(スコア:8.1)

主な廃業理由:

  1. 受注の不安定さと収益の変動
    プロジェクトベースの仕事が多く、受注が安定しないことがあります。これにより、収益が不安定となり、経営の継続が困難になるケースがあります。
  2. 競争の激化と価格競争
    専門性の高い分野でも競争が激化し、価格競争に巻き込まれることがあります。特に中小企業では、価格競争に対応するためのコスト削減が難しく、収益性が低下します。
  3. 人材確保の難しさと技術革新への対応
    高度な専門知識を持つ人材の確保が難しくなっています。また、技術革新のスピードが速く、それに対応できない企業は競争力を失い、廃業に至るケースが増えています。

9位:サービス業(他に分類されないもの)(スコア:7.4)

主な廃業理由:

  1. 業態の多様化とニーズの変化
    多様なサービスが存在し、特定のニーズに応えるのが難しくなっています。消費者のニーズの変化に対応できない場合、顧客離れが進み、経営が困難になります。
  2. 収益性の低さと価格競争
    価格競争が激しく、収益性が低下しています。特に中小企業では、価格競争に対応するためのコスト削減が難しく、経営が圧迫される傾向があります。
  3. 人材不足とサービスの質の低下
    サービス提供に必要な人材の確保が難しくなっています。人手不足により、サービスの質が低下し、顧客満足度の低下が経営に影響を与えるケースがあります。

10位:情報通信業(スコア:6.2)

主な廃業理由:

  1. 後継者不在による事業承継の困難
    情報通信業では、後継者不在率が77.32%と非常に高く、特にインターネット関連サービス業では88.67%に達しています。これは、代表者が比較的若いソフトウェア開発などが含まれることが影響しており、事業承継の課題が深刻です。
  2. 競争の激化と収益性の低下
    中小・零細企業では、大手企業との競争や下請け受注への依存が強く、営業利益率が平均5.7%と低迷しています。また、物価高や人件費の上昇などのコスト増加により、収益性が悪化し、赤字企業率が22.0%に達しています。

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